「フランス人は服を10着しか持たない」という本が出版されていて結構売れているそうです。10着しか持たないのが嘘か本当かは知る由もありません。それは人によるんじゃない?というもっともなツッコミはさて置き、この本はどういう背景で書かれたのか少し考えてみます。
この本はフランス人によるものではなく、フランスに留学したアメリカ人によって書かれています。著者は貴族の家にホームステイし、その家で見て感じたことを書き記しています。ホストとなったフランス貴族の一家の暮らしぶりから著者が感銘を受けたことが執筆の動機となっています。その家の人は服を10着しか持っていないかどうかはさて置き、高級品をどんどん買い足してたくさんコレクションして大事にしまっておくようなタイプではなかったようです。いいものを選びそれを大事に使う、そういう思想の人が留学生のホストだったのです。生涯使えるくらい気に入ったものを選んで持つ、それは高級品かもしれない、そしてそれを大事に使う。質素+整理整頓+情熱、を重視するフランス人ホストの生活ぶりが見て取れます。
フランス人全部がこうなのかどうかはわかりません。たまたまなのかもしれません。でもそれはここでは重要ではありません。このホームステイ先のフランス貴族は、いいものを少数持ち大切に使う、「物」に踊らされない、日常から喜びを見出す、整理整頓する(空間も頭の中も)、きちんと装う、を徹底的に貫く姿勢で生きていることになります。
ここでふと感じたことがあります。当ブログの記事「フランス大統領、年の差カップル」で元フランス大統領のミッテラン氏が愛人として生涯を共にすることになったアンヌ・パンジョという女性について書きました。この話と共通点がありそうです。愛人を持つことの良し悪しについての議論は野暮なので置いておくとして、ミッテラン氏は46歳の時に19歳の女性と出会い、その後生涯愛人としての関係を続けることとなりました。奥さんがありながら別に愛人を作ったという事だけ取り上げると、日本では徹底的に非難の的となりそうですが、そこは恋愛大国のフランスです。大統領でありながらそんな関係を維持しつつ職務を全うしました。そしてミッテラン氏とアンヌ・パンジョの間には真の愛情が存在したはずです。でなければ死ぬまで愛人関係を継続できるはずがありません。
先のフランス人ホストとミッテラン氏、心底大事にできるものを見つけたらそれをずうっと大事にする、なんとなく日本のメディアたちが取り上げたがるセレブ文化と違います。何が違うのかというとやっぱり成熟度なのでしょうか。いいものを少数大事に持ち、日常からささやかな喜びを見つける、という考え方は頭の中がとてもすっきりと整理整頓されていないとできないこと。そういう感覚を得るためにはそうとう頭の中が成熟していないとできそうにありません。まあ筆者自身の服の数は、フランス貴族の発想とは違う理由で10着程度なのですが、それはさておき、服なんてその程度あれば十分な気がします。それで何も困ることはありません。それがお気にいりのものであればなおさらそれ以上買い足す理由を見出せません。
参考サイト:Instagram coco_airi
これは先日某テレビ番組で登場した謎のセレブ女性のInstagramです。この参考サイトの人の生き方はそれはそれですばらしいです。否定する気はまったくありません。けっこう対極的な位置にいる人に見えましたので参考サイトとして掲載します。考え方は人それぞれです。前述のアメリカ人留学生のホストとなったフランス貴族の成熟度というのはひしひしと感じます。筆者はフランス文化に興味を持ってフランス語を学んでいる人ですので、やっぱりどうしても「フランス人は10着しか服を持たない」の世界に共感を覚えてしまいます。要は人生をどれだけコンパクトにすることで喜びを得られるか、そういうことについてどれだけ主体的に認識しているか、そういう話なのです。